全社的な取引情報と担保情報の電子化 ~ 中央清算されないデリバティブ取引の証拠金規制に備える ~

2015年12月から中央清算されないデリバティブ取引において変動証拠金 (VM) の授受が義務付けられ、当初証拠金 (IM) の授受についても段階的に義務付けされます。担保管理業務の複雑化・担保調達コストの増加を抑制するために、全社的な取引情報と担保情報の電子化に取り組む必要があります。

目次
証拠金規制の背景と概要
証拠金規制後の展望~証拠金計算プラットフォームの登場、担保の最適化

証拠金規制の背景と概要

2007年のサブプライムローン問題に端を発した金融危機の反省を踏まえて、バーゼル銀行監督委員会 (BCBS) 及び証券監督者国際機構 (IOSCO) より「中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制に関する最終報告書」が発表されました。

すでに清算集中義務により店頭デリバティブ取引は中央清算機関 (CCP) へ移管されるようになっているものの、まだ中央清算ができるほどに標準化されていない取引もあり、すべての取引が移管されているわけではありません。中央清算されないデリバティブ取引のうち、一部の当事者間ではCSA契約に基づいて証拠金が授受されていますが、義務付けられていないため、「取引不履行時には市場参加者間の取引停止の連鎖、また、市況悪化時の追加担保徴求による景気循環増幅効果が生じ、金融システムの安定性を揺るがすおそれが生じている(参考リンク)」と見られています。

金融システム全体の安全性を高め、中央清算機関の利用を促す目的で、各国で証拠金規制の導入が進められており、日本においても2015年12月より証拠金規制が施行される見通しです。

変動証拠金 (VM) 適用と当初証拠金 (IM) 段階的適用のスケジュール

変動証拠金、当初証拠金とは?

変動証拠金とは対象取引のカレント・エクスポージャーです。ある時点での含み益を変動証拠金として差し入れてもらい、取引相手が破たんした場合に発生する想定外の損失(含み益が実現できなくなることは損失といえる)に備えます。また、当初証拠金とは対象取引のポテンシャル・フューチャー・エクスポージャー (PFE) です。取引相手が破たんすると変動証拠金の授受がストップするため、変動証拠金では破たん以降のカレント・エクスポージャーの増減をカバーできません。そこで、対象取引を売却(クローズアウト)するまでのあいだの残差リスクを当初証拠金として交換します。

JSCCの図

担保管理業務の負荷増大

上述のとおり、変動証拠金及び当初証拠金は計算時点でのカウンターパーティ・リスクをカバーするものですので、計算後速やかに授受されることが必要です。従来は当事者間で合意していれば週次や月次で計算することが許されていましたが、2014年7月3日に公表された規制案(参考リンク)によると、変動証拠金については対象取引が3千億円以上の金融機関は日次で計算(内閣府例)、3千億円未満の金融機関は週次及びアドホックで計算(監督指針)し、約定後1日以内に担保物を決済となります。当初証拠金についてもポートフォリオが変更された場合、ただちに再計算が必要です。

担保管理業務の業務スケジュール
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証拠金規制後の展望~証拠金計算プラットフォームの登場、担保の最適化

1. 証拠金計算プラットフォームの登場

中央清算されないデリバティブ取引についても、中央清算機関にて統一的な計算方法で証拠金額が計算されることが望まれますが、そのためには取引をある程度標準化する必要があり、現時点では現実的ではありません。当面は取引参加者が証拠金額を計算する状況が続くと考えられます。

すべての取引参加者が証拠金規制に対応し、主体的にカウンターパーティリスクを把握するようになると、証拠金額の認識相違(ディスピュート)が増える可能性があります。

現在は中央清算されないデリバティブ取引の一方が計算主体となって証拠金額を提示し、もう一方は証拠金額の妥当性を確認するだけの一方通行のリスク把握であったかも知れません。しかし、規制後は双方が証拠金額を計算し、カウンターパーティ・リスクの認識が一致している(あるいは、乖離が許容範囲内である)かを確認しあうようになると考えられます。証拠金額を合意できない場合は当事者間の事前の取り決めに基づいて証拠金額を決定しますが、双方の計算した証拠金額が著しく乖離しているときは決定できないため、当事者間で話し合って妥当な証拠金額を算出するまで、証拠金が授受されません。証拠金が授受されないあいだ、カウンターパーティ・リスクが証拠金によってカバーされていないことになります。

証拠金額の相違はいずれかの当事者が正しく計算できていないために生じることもありますが、多くの場合、(1) CSA契約情報や取引情報が異なる(入力の不備)、(2) マーケットデータが異なる、(3) マルチカーブ対応有無によりプレーンな商品の時価が異なる、(4) 評価に用いる理論モデルが異なることで生じると考えられるため、対象取引が満期を迎えるまでディスピュートを防止するには、どちらかの計算方法をもう一方に開示して、採用してもらう必要がありますが、取引相手にあわせて計算方法を増やしていくのは現実的ではありません。(当初証拠金については、国際スワップデリバティブ協会 (ISDA) より標準的手法 (SIMM) が提示される見通しですが、標準的手法を採用することは義務付けられないため、様々な理由から独自の内部モデルを採用する取引参加者が出てくると考えられます。)

また、多様なニーズにあわせたテーラーメイドなデリバティブ取引を中央清算できるデリバティブ取引に切り替えられれば、ディスピュートを削減できるものの、ニーズに合致しないことから取引機会の減少につながるおそれもあります。

そこで考えられるのが、清算は引き受けずに証拠金だけを計算する第三者機関(証拠金計算プラットフォーム)です。第三者機関にデータを集約して、両者が合意した計算方法で証拠金額を計算するのであれば、計算方法を増やす手間を避けられ、データを自動的に照合できることから、ディスピュート低減を期待できます。ディスピュートが減ると、証拠金でカバーされていないカウンターパーティ・リスクが減るため、当事者にとってメリットがありますし、金融システム全体にとってもメリットがあるといえます。金融システムのリスク軽減に寄与するべく、弊社においても証拠金計算プラットフォームを提供できるかどうかを検討しています。

2. 担保の最適化

何らかの方法で担保情報が集約されて電子化されると、(1) 変動証拠金として差し入れられた担保の利用(再担保)で利益を得る、(2) 調達コストの低い担保を取引相手に差し出す、などを実現できるようになります。また、差し入れられた担保の集中制限 (Concentration Limits) を即時にチェックして、決済前に望ましい担保を差し入れてもらうよう交渉することも可能になります。上述の証拠金計算プラットフォームが実現されれば、プラットフォーム利用者はデータを集約するだけでこれらのメリットを享受できることでしょう。

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